ファッションディレクター・スタイリスト
長谷川昭雄の
第六回

蒐集家が、ものを売るということ。

郷古 隆洋さん
〈Swimsuit Department〉/『BATHHOUSE』オーナー
今シーズンのモデルになってもらった人たちに、
スタイリスト長谷川昭雄が気になることを
聞いてみる対談シリーズ。
第6回は、『Swimsuit Department』の屋号で
輸入雑貨の卸販売やヴィンテージのトランクショーを行い、
神宮前と福岡の太宰府でアポイントメント制のショップ
『BATHHOUSE』を営む、郷古隆洋さんにお話を伺いました。
長谷川昭雄
最初にお会いしたのって、もうだいぶ前ですよね。
郷古 隆洋
長谷川くんとはねえ、僕がUA(ユナイテッドアローズ)にいた頃からだから……、顔と名前を知ってからはかれこれ20年くらい。
長谷川
長いですねえ。
郷古
意外と、今会ってる人の中では一番長いかも。
長谷川
えっ、そうなんですか?……ああでも、言われてみればこの仕事始めて25年経ってました。
郷古
今年で25年?じゃあ絶対やったほうがいいよ、25周年パーティ。
長谷川
いやいや(笑)
郷古
キリもいいし、やろうよ。政治家の先生みたいに。
長谷川
気付いたらそうなってただけで、そんなに誇らしいわけでも……。
郷古
でも物販やってる側からしたら、25年やるのってすごく大変なことだよ。
長谷川
郷古さんの〈Swimsuit Department〉も結構経ちますよね。
郷古
うちはね、11年目。早いよねえ。独立して11年経ったよ。
長谷川
あっという間ですねえ。今はでも、福岡にいることが多いですか?
郷古
そうだね、向こうに家もあるし、1月に太宰府に『BATHOUSE』の2店舗目を出したからね。今は一ヶ月に2週間くらいずつ、東京と福岡を行き来してる。
長谷川
お店はアポイントメント制なんですよね。
郷古
そう。東京は火曜を休みにしてるんだけど、それは美容師さんがお休みだから。ヴィンテージの雑貨って、けっこう美容師さんが買ってくれることが多くてね。それでいうと、太宰府は月曜休み。奥さんが教えてくれたんだけど、福岡の美容院って月曜が休みなんだって。「東京と違うんだ」ってちょっと驚いて。福岡だけじゃなくて九州全体がそうなのかな。
長谷川
そうなんですね。お店って、最初の頃と今とで、揃えるアイテムは変わったりしてるんですか?
郷古
最初はね、古いものはやってなかったの。もちろん古いもので商売していけたらいいなと思ってたけど、もうその頃からインターネットで、eBayとか個人間でバンバン買えるようになってたし、今やることじゃないなあと思って。それに前職の『プレイマウンテン』で作家のブランドの輸入卸とか代理店的なことをやってたから、しばらくは作家ものでやってみようと。それで、徐々に趣味の範囲で古いものも始めるようになって。
長谷川
なるほど。でもヴィンテージの高い家具、みたいなものは置いてないですよね。
郷古
家具はねえ、うちは置く場所とか運ぶ手段を構築してないのと、自分が細かいものが好きだから。家具って動くお金も大きいけど、回転させるのがね。だって椅子を買ったら、もう当分椅子はいらないでしょう。自分がそうだから、細かなものに目が行っちゃうんだと思う。
長谷川
全部郷古さんがひとりで買い付けてるんですもんね。
郷古
そうだよ。よく言うんだけど、“古いものは移動距離に比例して見つかる”から、実際に行かなくちゃダメ。目的地には必ず前日に入って一泊して、朝イチで骨董市に寄る。新幹線の往復代とかホテル代を出しても赤にしないようにしないといけないから、その辺はちょっとゲーム感覚。
長谷川
割れ物が多いんじゃないですか?
郷古
だから梱包が大変。そういう時は友達に預かってもらっておいて、別のイベントのときにピックアップするとかね。
長谷川
いろんな工夫をするんですね。いつから古いものが好きなんですか?
郷古
UAにいるときから、骨董市にはよく行ってたよ。東郷神社でやってたから、出勤前に寄って。東京生まれ東京育ちじゃない?「東京の何がいちばん好きですか?」って聞かれたら、「骨董市があるから」って答えてる。大阪で月2回とか、京都ですら月3回くらいしかやってないけど、東京は土日どこかしらでやってるから。こんなに毎週末ある場所ないんだよ。
長谷川
確かに、東京ってよくやってますね。
郷古
でしょ? ……でも考えてみると、最初に興味を持ったのは家具だったかも。2000年くらいに岡本(仁)さんが作った『ブルータス』の椅子の号を観て、上野でやってたイームズ展も観に行って。
長谷川
そういえばイームズ邸、一緒に行きましたよね。
郷古
あれっ、そうだっけ。
長谷川
ロサンゼルスの、日本人の方がやっていらっしゃるお店に郷古さんに連れて行っていただいたら、イームズさんのご家族の方? と偶然出会ったんですよ。そこで「イームズさんの家の中を見られるわよ」とか教えてもらって、別の日に行ったら、普段は見られないっていう部屋にまで入れてもらえたんです。
郷古
あ〜、確かサンフランシスコかロサンゼルスでイームズの展覧会やってたんだよね。で、家の中のものを展覧会に貸しちゃってるから、家の中がスカスカだったの。案内してくれた人も、「来てくれたのに申し訳ないから入っていいよ」っていうのもあったのかも。
長谷川
雑然としたところにいろんなものが置いてあって。中古品とか、拾ってきた木みたいなのをリサイクル的な感じでアレンジしてましたよね。
郷古
海から拾ってきたのもあったりしたし。入ったねえ、あのとき。
長谷川
西海岸にはよく行かれるんですか?
郷古
そうだね。でも、今はサンフランシスコじゃなくてロサンゼルスがいいかなあ。サンフランシスコは、グーグルとかシリコンバレーチームが家賃を上げちゃって、貧富の差がすごい。一人で20万とか30万とか買うお客さんがいるんだよ。すごいなあって思ってると、「旦那さんが“いいねマーク”を作った人らしい」とかね。
長谷川
“ミスターいいね”がいるんですね(笑)。
郷古
そういう人が一気に買ってくれるんだけど、正直あんまりいい売れ方じゃない気がして。だったらロサンゼルスみたいに、いろんな人がやってきて、ちょっとずつ買ってくれるほうが嬉しいかなあ。
長谷川
売り方も大事ですよね。特に古いものって、せっかく集めても売れたらなくなっちゃうじゃないですか。売れたら嬉しいけど、売れたら悲しくもないですか?
郷古
バイヤーって多分2タイプいるんだよ。いいものをバンバン売る人と、いいものを自分で持ちたいと思う人。俺は「持ちたい」と思っちゃうほうなのね。ランドスケーププロダクツの中原(慎一郎)さんからはバンバン売るほうじゃなきゃダメだよって言われてたけどね。でも古着屋さんとか後者が多いよね。僕もそっちで。悲しいなあとか、売らなきゃ良かったなあとか、安くしちゃったなあとか、日々後悔の連続。
長谷川
(笑)。わかる気がします。
郷古
どれだけ色んなものを見ても終わりがない。その時々で自分の興味が変わってもいるしね。終着点のない仕事だから。
長谷川
古いものが好きなんですね。
郷古
基本的にね。古いものだけで商売して行けたらいいなと思うよ。