ファッションディレクター・スタイリスト
長谷川昭雄の
第五回

店の人格。

嶋崎 周治さん
『Continuer』オーナー
今シーズンのモデルになってもらった人たちに、
スタイリスト長谷川昭雄が気になることを
聞いてみる対談シリーズ。
第5回は、恵比寿『Continuer』をはじめ、
都内に4店舗のアイウエアのセレクトショップを構える、
嶋崎周治さんにお話を伺いました。
長谷川昭雄
今日嶋崎さんがかけているメガネは、幅がちょっと違うんですか?
嶋崎 周治
僕の顔に合わせて、ちょっと広げてます。そもそも日本人は全般的にそうなんですけど、正面から見ると、奥に向かって、耳のついている位置くらいをまでにかけて、顔の横幅が広がっているんですよ。西洋人は顔と頭の骨格の横幅に差がないんですが、日本人は奥にいくほど広くて。それでどうしても、かけた時にいちばん広い部分の圧迫をなくそうと、ツルを広げて抱え込む形で調整したりします。
長谷川
ああ、それでメガネをこうやってテーブルに置くと、ツルがパッと広がるんですね。
嶋崎
そうなんですよ。かけていて負担がないように、ちょっと広げてるんです。ですから撮影の時なんかは、真正面から撮ると距離がつぶれて、メガネが顔の内側に入り込んでいるように見えてしまう。撮影する時は、正面だったら少しオーバーサイズのメガネをかける。あるいは斜めから撮れば大丈夫かなっていうのは感じてますね。
長谷川
写真って、なんであんなに気になるんですかね。肉眼で見てると気にならないのに、写真になると細かいところが気になっちゃって。特に雑誌ですね。ウェブはわりと大丈夫なんですよ。動画に近い感覚で静止画を見ているというか。
嶋崎
撮影している時は相手も動いているし意識が色々なところに向いていますし、ある意味、偏ったところに意識が向いてしまっていますが、いざ写真になると一箇所ごとに落ち着いて眺めることができるからでしょうね。原稿も、書いている時は気にならないけど、印刷して活字にするとおかしな点に気づきますしね。
長谷川
それは視覚というか、脳の影響なんですかね。
嶋崎
おそらく脳なんでしょうね。“フォーカシング・イリュージョン”という言葉を何かの本で読みましたが、人は何かに集中すると周りが見えなくなってしまう傾向があるんだと思います。
長谷川
前から思ってたんですが、嶋崎さんっていつ本を読むんですか?
嶋崎
朝か夜中ですね。朝ごはんはいつも、近くのコーヒースタンドでひとりで食べるんです。そこで仕事の整理をするんですけど、本を読むこともあって。大体30分くらいですね。テーマによってさらさら読めるんですけど、僕の場合、国語力がないのか(笑)、小説とか、描かれる世界がぜんぜん頭に入ってこないことがあります。自分が過去に考えたことと繋がれば理解できるんですけど。
長谷川
ああ、想像しながら読まないといけないんですかね。
嶋崎
そうなんです。例えば村上春樹が翻訳している、レイモンド・カーヴァーの小説を大学生の時に読んだときも、著者は何を伝えたいんだろうとずっと考えてしまって。僕の勝手な解釈では、コミュニケーションのギャップとか不条理感を、客観的に描いてるんだろうなってことだったんですけど、学生時代の僕にはその感覚が遠くて。友達とも親とも仲が良かったし、言葉を尽くしてもコミュニケーションしきれない体験がなかったから、理解できなかったのかなあとか。
長谷川
ああ、自分の中にないからよくわからなかったってことなんですかね。
嶋崎
はい。何かの議論が書かれているような本とかでも、書き手の論理を理解したいと思っても、暗黙の前提みたいなものが、ピンと来ない時があったり。特に西洋人の書いた本や、違う時代に書かれた本。そういう系の本を選びがち、というのもあるんですが、どういうアングルで読んでいいかわからないんですよね。ですから、そういう本を読む時は対話しながら読みます。
長谷川
どういうことなんですか?
嶋崎
相手の論理に自分の前提をのっけて、勝手に別の結論を考え出したり。つまり有益だなって思える本は、開いてる時間は10分くらいでも、考えがたくさん浮かぶ本なんです。パッと開いて、いろんな考えが溢れてきたら、パタッて閉じる。結局は自分が何かを考えるために読んでいるんだと思います。
長谷川
じゃあ最後まで読まずに終わることもあるんですか?
嶋崎
はい。買ったうち、何割くらいだろうなあ。全部読むのは三割くらいかもしれません。
長谷川
へえ〜。
嶋崎
そのかわり、何十回と読む本もあります。コンディションを整えたり、リラックスした状態を作ったりするために読む本とか。
長谷川
僕ね、本読めないんですよ。でも本は好きで。
嶋崎
僕も本は好きなんですよ。でも、“読む”というより“何かを気づかせてくれる”、そんな物質としての存在感が大きい気がするんです。
長谷川
似たものを感じてちょっと安心しました。すごくよくわかります。その気持ち。
嶋崎
神楽坂の『かもめブックス』の柳下さんとお話したときに、「本の背表紙のもつ情報の大きさ」というようなことを仰っていて、とても共感しました。背表紙を見れば、多少読んだ本なら一瞬でそのことを思い出しますよね。チラチラッと見るだけで意識が引っ張られる。本は単なる物質だけど、脳が呼応するんです。特に、旅先で買ったり思い入れを持って買った本だと、その記憶も加味されて刺激になる。買う経緯というか、そのプロセスが与える影響は大きいと思いますね。
長谷川
ありますね。ものを買う時に接客だったり、包み紙だったり、何かひと手間があるほうがその後、何年経っても愛情を持てるというか。
嶋崎
本に限らず、メガネでも、服でも、様々なものがそうですね。
長谷川
質の高い商品を雑に売られるよりも、多少安くても感じよい接客で売ってもらったほうが、あとあと良いものに感じると最近感じて。不思議だなあって。
嶋崎
うちのスタッフにもそのあたりは意識を置くように話しています。
長谷川
メガネ屋さんって大体空いていて、ちょっと入りにくいじゃないですか。でも恵比寿の『Continuer』はいつも賑わっていて。あれはなんででしょうね。
嶋崎
そうですね。吉祥寺の「The PARKSIDE ROOM」も土日は混みますね。現在は新型コロナウイルスへの対策を考えて、入場制限をさせていただいてますが(3月19日時点)。
長谷川
接客って、スタッフの方たちにどう伝えてるんですか?
嶋崎
人としてまっとうに対応しよう、みたいな意識が僕のなかにはあって。プロフェッショナル然とした“形”にウエイトを置きすぎないというか。中にはそういう方たちを集めた、シャープでスタイリッシュなお店もあるんですけど、うちのお店ではそこではないところに意識を置いているかもしれないですね。
長谷川
スタッフの皆さん、みんな似た雰囲気がありますよね。温度感が似ているというか。
嶋崎
“店格”じゃないですけど、お店のことをひとりの人格のように考えているので、店のキャラクターに合った人を採用している結果でもあると思います。僕、理屈っぽい人間って思われがちなんですけど、実はけっこう感覚的なんですよ(笑)。
長谷川
わかりますよ(笑)。人柄を大事にしていらっしゃるんですね。
嶋崎
「いいんじゃない?」みたいな感じで物事を決めることが多いんです。「絶対に良い!」「絶対に嫌だ!」みたいな強い気持ちって、何かの裏返しだったり、コンプレックスが潜んでたりすることもあると思っていて、前提が変わるとコロッと結論が変わったりする。でも「なんか違うなあ」「なんかいいなあ」っていう感覚は揺らがない。だから、僕は重要な決断をするときは、じわっとした感覚にウエイトを置くようにしてるんです。
長谷川
なるほど、面白いですね。すごく嶋崎さんらしい気がします。お客さんがスタッフになることも多いんですか?
嶋崎
比率としては高いかもしれませんね。僕はお客さまがいる時は邪魔になっちゃうので、あまりお店にいないんですけど、ベテランスタッフたちがスタイルを作って、きちんと伝えてくれています。
長谷川
接客のルールも一応はあるんですよね。
嶋崎
ルールというか、ものづくりの背景について関心を持って伝えることは重要視しています。それと同時に、情報も大事ですけど、お客さま自身が感覚的になれるような環境づくりでしょうか。
長谷川
確かに『Continuer』って、試しにメガネをかけてみても気を遣わないというか。
嶋崎
視ることに関わることは、経験豊かな店長たちを中心にしっかりとしたサービスのご提供を心がけていますが、お店の雰囲気の部分で言うと、逆に“スキがある感じ”というのを重視してるかもしれません。恵比寿の店は扉が引き戸で、ガラガラガラッて開けて入るんですけど、あの緩さが僕はけっこう好きで。
長谷川
確かに、スキって大事ですね。
嶋崎
僕の場合、お店を人間っぽく例えてるのが大きいかもしれません。この店にはこういうテイストの什器がいいかなあ、こういう雰囲気のスタッフがいるといいなあって。
長谷川
だから入りやすいのかも。メガネ屋さんって、触っただけで買わないといけないかなって怯える人もいそうですしね。
嶋崎
そうですね。入りにくいし、とっつきづらい業種ではあると思います。なので、リラックスできて、感覚的に選びやすい雰囲気にしています。昔、街でとある有名なボクサーの方を見かけたんですけど、すごくウエルカムな空気を出してらっしゃったんです。話しかけてもいいですよ、というような。ああ、こういう人が人気が出るのわかるなと思いました。それって、体全体から醸し出される空気感ですよね。そんな「どうぞ」という雰囲気の店になったらいいなって。
長谷川
店づくりってそういう感じなんですね。
嶋崎
どの店も試行錯誤なんですよ。前に、50店舗くらいの飲食チェーン店を経営されてる方とお話したんですけど、「毎回ゼロベースで考えることになる」って仰っていました。一つ一つ、どの店も条件が違うから。店が駅から近いか、遠いかでも変わりますしね。
長谷川
今、駅から遠くても人気の店ってありますよね。
嶋崎
ありますね、わざわざ行く感じの。そういう、若い人がやってるお店って、ムリしてやってないからこそ、いい意味でスキがあっていいなと思います。お店をよく見せよう、と背伸びをしたときに、どんどんスキがなくなっていく気がしますね。
長谷川
なるほど。
嶋崎
うちがメガネをつくる時も一緒で、フレンチのヴィンテージの要素を入れたいなと思った時に、当時のモデルをガチガチに再現するんじゃなくて、わざと少しふわっとさせる。そう言う方がうちっぽいですし、あえて作る意味もあるのかな、と。
長谷川
スキなんですね、やっぱり。
嶋崎
そうですね。あとはまあ、ミックス感ですね。西洋には、社会的な地位の高い人しか入れない高級店なんかもありますが、東京はそうじゃない。いろんなカルチャーが混ざっているし、そのミックス感が面白い。店もメガネも、そういったところを意識しています。
長谷川
いつも勉強になります。ありがとうございました。