ファッションディレクター・スタイリスト
長谷川昭雄の
第四回

役者人生は突然に

竹内 啓さん
{{役者
今シーズンのモデルになってもらった人たちに、
スタイリスト長谷川昭雄が気になることを
聞いてみる対談シリーズ。
第4回は、歌舞伎{{役者・中村獅童さんの付き人でもある、
俳優の竹内啓さんに聞いてみました。
長谷川昭雄
もともと{{役者への興味はあったの?
竹内 啓
一度も考えたことはなかったんです。小中高とサッカーと勉強っていう感じでしたし、映画といえばデートで行くぐらい。
長谷川
(中村)獅童さんのことは知ってた?
竹内
最初にお会いした時も最初はわからなくて。名前と顔が一致しないっていうか……。
長谷川
ははは。そうだったんだ。どこで会ったの?
竹内
それが全くの偶然で、神田のお蕎麦屋さんなんです。
長谷川
『かんだやぶそば』だ。確か一回火事になったけど、じゃあ復活したあとに行ったんだね。
竹内
多分そうです。僕、大学2年生の時に1年間、スペインのバルセロナに語学留学してたんですよ。その時に出会った可愛い韓国人の女の子が、「夏休みに日本に遊びに行くから遊んで」って言ってくれて、もう遊ぶしかないじゃないですか。グルメな子で、「日本のお蕎麦が食べたい」って自分で店を探してきて。僕は付き添いみたいな感じで、お昼時だから瓶ビールとせいろそばを頼んで、イチャイチャして。
長谷川
あははは。
竹内
いや、イチャイチャっていうか普通にご飯食べただけなんですけど(笑)。で、蕎麦湯が来るじゃないですか。僕はその扱いを全く知らなかったんです。彼女になんとか英語で説明しようとしても、そもそも蕎麦湯が何なのかわからない。どうしようって思ってたら隣の人が僕の肩をトントン叩いて「蕎麦猪口に入れて飲むんだよ」って身振り手振りで教えてくれて。そうやって使うんだ、とその通りにして飲んで、「あ、おいしいです。ありがとうございます」って言ったら、ものすごく驚かれて「お前日本人かよ!」って。それが獅童さんだったんですよ。
長谷川
あははは!
竹内
外国人観光客が多い店だったし、海外から来た人に蕎麦湯まで味わってもらいたいっていう、獅童さんなりの優しさだったんですよね。
長谷川
俺も昔サウナに行ったら、作務衣の着方がわからなくて困ってる人がいて、多分中国かどこかから観光で来てるんだろうなと思って、とりあえず英語で教えてあげたの。そしたら日本人だったことがある。
竹内
全く同じです(笑)。でもそのあと「いくつ?」とか「何してるの?」とか色々聞かれて。「将来何したいの?」って聞かれて、なんとなく「洋服やりたいんです」とか言っちゃって(笑)。留学してたしスペイン語がちょっと話せたから、それで海外のファッションのプレスとかやれたらいいなって……。そうしたらご一緒にいた奥さまの沙織さんがもともとブランドでプレスのお仕事をされていたそうで。
長谷川
そうそう。俺もプレス時代にお世話になったことがあって。竹内くんのことも、先日初めて獅童さんの歌舞伎を観に行って、沙織さんから「こんな子がいるんです」って紹介されて。何か機会あるかなあと思ってて。その次の週くらいにこのMTGがあって、そういえばあの子いいんじゃないかって。
竹内
ありがとうございます。
長谷川
不思議な繋がりだよね。ファッションの仕事がしたかったんだ。
竹内
はい、漠然とですけど。それでOB、OG訪問的な感じで、沙織さんにご挨拶に行ってみようと思って。大学もスペイン語学科で、ファッションの世界のことがわかる人なんて誰もいなかったし。
長谷川
大学はどこだったの?
竹内
八王子の拓殖大です。全然勉強してないんですけど。
長谷川
でもスペイン語って将来的に役立ちそうだもんね。俺も実は大学の時にスペイン語をちょっと習ってたんだけど。
竹内
へえ〜、第二外国語ですか?
長谷川
そう。スペイン語って英語とちょっと似てるじゃない。だから最後混同してきて、結局英語もわかんなくなっちゃった。
竹内
あはは。なんで取ったんだろうスペイン語、ってみんな言いますね。地獄だったわーって。
長谷川
でも世界でいちばん使われてるんでしょ?英語よりも。
竹内
そうらしいです。南米に行くと遊び放題らしいですよ。
長谷川
それで、スペイン語を使う仕事をしようと。
竹内
はい、漠然とですけど。それで沙織さんに会いに歌舞伎座に行って。どうやって就職したんですか、どんなお仕事してたんですか、とか本当にあれこれ聞いて。沙織さんも丁寧に話してくださって。そしたら最後のほうで「啓くん、{{ con役者さんってどうかな」と言われたんです。「獅童さんがいいって言ってたんだよね」って。
長谷川
へえ〜!
竹内
すごく驚きました。でも、{{ con役者というものに対して、あんまりいいイメージがなかったというか……。当時、高円寺の古着屋さんによく行ってて、その店に来る若い{{ con役者さんと知り合う機会が多かったんです。でもみんな「お金がない」「レッスン代もない」「家賃も払えない」っていう話をしてて。だから二つ返事でやりたいです、とは言えなくて。
長谷川
大学まで行ってたなら、色々と選択肢もあるもんね。
竹内
そうなんです、すぐには決めきれなくて。それで、獅童さんの現代劇を観に行ったら、すごく感動して。はじめて舞台というものを観て、ぶっちゃけどういうストーリーなのかもわからないくらい難しかったんですけど、かっこいいなあ、とだけは強く思って。楽屋挨拶で「何もわかんなかったんですけど、めっちゃ面白かったです!」って、今じゃ言えないような失礼なコメントを(笑)。でも獅童さんは「それでいいんだよ、またおいで。毎月やってるから」って仰ってくれて。それから舞台を観に通い続けて、この世界ってなんかいいなあ、チャンスがあるならチャレンジしてみたいなって気持ちが変わっていきました。それが3年生の後期くらいですね。
長谷川
へえ〜、面白いね。
竹内
4年生になって、このまま普通に就活していいのかと。それでもう一度沙織さんに連絡したら「付き人やってみたら?現場にはたくさん付かせてあげられるし、見て勉強したらどう?」と言ってくださって。それからですね。在学中に獅童さんの現場に付くようになって。
長谷川
大学は卒業したの?
竹内
はい。獅童さんが「しっかり卒業しなさい」って仰ってくださって。だから夏休みの間とか、授業がない時期とか、時間が取れる時に付いてました。
長谷川
付き人ってどんな仕事してるの?
竹内
獅童さんより早く来て、楽屋の掃除をして、到着したら迎えに行ってカバンを持って。獅童さんがスムーズにお芝居に入れるように、着替えを手伝うとか、自分ができることを全部やる感じです。
長谷川
大変だね。歌舞伎もあるし、映画もあるし。
竹内
あ、でも歌舞伎のお弟子さんはお二方いらっしゃいます。
長谷川
ああ、部門で分かれてるんだ。
竹内
そうなんです。僕は映像とか舞台の現場に付いています。でもそういう、歌舞伎以外の仕事に若い子を付けることはこれまでなかったみたいで。「初の試みだから、どうなるかわかんないけど」って。でもすごくありがたいです。
長谷川
付き人っていう制度をいまいちわかってなかったんだけど、確かにそういうステップを踏んだほうがいいよね。マネージャーも必要だけど、マネージャーは{{ con役者になるわけじゃないもんね。
竹内
本当に勉強させてもらっています。
長谷川
{{役者さんごとに必ず付いているわけじゃないんでしょ?
竹内
でも俳優さんの横には、よく若い子がいますね。大体ってことはないですけど、たまに見かけます。ちょっと仲良くなったりして。
長谷川
付き人同士で?面白そう。でもさ、信頼がないとお願いできないよね。カバンには大事なものがたくさん入ってるわけだし、ちゃんとやってるふりして適当な人もいるかもしれない。気が合わないと大変だしね。
竹内
そうですね。でもまだ緊張してしまって、気が合うなあ、とまでは……。
長谷川
でも合わせようと思う気持ちを持てるって大事だと思うよ。
竹内
ああ、確かに「“気を遣う”とか“空気を読む”っていう能力はお芝居をする上で必要だから」っていうのは口酸っぱく仰ってくださいます。獅童さんは、「お芝居はこうやるんだよ、と教えられない」と仰って、何か技術的なことを口にすることはないんです。でも、「気を遣いなさい、もっと周りを見なさい」というのは、絶対ですね。怒られる時に必ず言われます。
長谷川
出来ない人は始めから出来ないんじゃない?気を遣える人っていうのは、そういう才能とかセンスがある人っていうか、気を遣えるだけの細やかさがある人なんだと思う。雑な人って、一生雑なんだと思うよ。竹内くんと話すうちに、何か感じたのかもね。
竹内
どうなんですかねえ。もっとちゃんときを配れるようにしたいです。
長谷川
今は獅童さんに付いて、何年目?
竹内
まる3年経って、4年目ですかね。
長谷川
じゃあ、もうだいぶ色々と見えてきた感じかな。
竹内
舞台がどうやってできてるか、映画がどうやってできてるかっていうのは、現場を見ることで少しずつわかってきたんですけど、まだ謎な部分が多いです。{{ con役者さんの現場での立ち居振る舞いも直に見ますし、それはすごく勉強になってます。“なってます”っていう感じです、まだ。
長谷川
今回の撮影では、どんなことを考えてたの?
竹内
考えてたっていうか、感じてたっていうか。高架下だったので、電車の音とか、匂いとか……。真っ昼間だったんですけど、僕には周りが暗く感じられていて。
長谷川
そうなんだ、面白いね。
竹内
ちょうどあの時にやっていた舞台稽古の一貫で、椅子に座って音楽を流して、音とか空気とかを感じたら動く、っていうゲーム形式のレッスンをしてたんです。新感覚で楽しかったんですけど、それが頭にあった気がします。
長谷川
なんか狂気を感じるような顔つきだった気がする。
竹内
“お葬式帰りにはしちゃダメだ”っていうのをすごく意識しましたね。
長谷川
あ、そうだ。葬式っぽくは見えないようにしたいんだよね、って言ったよね。
竹内
そうです。だから気をつけました。
長谷川
すごく雰囲気が出てると思った。この竹内くんの写真を見て、「こういう風にしたいんです」っていう人がいっぱい来てるんだって。
竹内
ええっ!嬉しいです。えー。
長谷川
普通のスーツなんだけどね、それこそ葬式用にも見えるような。でもちょっとだけ違うものに見えるところが、みんなを魅了したんだと思う。
竹内
いやあ、そんな……。
長谷川
スーツを着せて、ヘアメイクをしたらこんな風になるんだっていうのが衝撃だったっていうか。役みたいなものが確かにあったし、あの時会った感じとは全然違っていて。結構面白いなと思った。
竹内
嬉しいです。
長谷川
スタイリストの仕事って、ファッションをやる人、広告をやる人、芸能をやる人って、完全に分かれちゃってて。跨いでやってるとしても、まんべんなくというよりは大体どれかの比重が多い。俺は99%がファッションだから、広告をやったとしても“ファッションの広告”になる。{{ con役者さんの仕事っていうのは、ほとんどやる機会がないんだよね。
竹内
へえ〜、そうなんですね。
長谷川
だからたまに{{役者さんの仕事があると、すごく新鮮で。先日も、ある{{ con役者さんの現場だったんだけど、楽屋では普通に喋ってたのに、「本番です」って言われた途端に台詞をスラスラッと喋って一発OK。{{ con役者さんってすごいなあってその時に思ったね。
竹内
獅童さんも、すごく緊張してる時もあれば、舞台の出の直前まで笑って喋ってて、きっかけが聞こえたらスッと入る時もあります。何回見てもうわあって思いますね。
長谷川
あれはすごいよね。
竹内
撮影の時は、確か長谷川さんから「ポッケに手を入れて絶対出さないで」って言われました。ポケットに手を入れて、どこかを見るのかな?と思って視線を動かして、ちょっと動いたりして。もういいかなと思ってポケットから手をだしたら「いや、入れてて」って(笑)。入れたまま向こうに行って、戻ってを繰り返して。これでいいのかな、と思いながら(笑)
長谷川
あったね。でもね、竹内くんは素人の子たちとは明らかに違って、何か意味を含んだ表情をしてたから、さすがだなあと思った。プロモデルの中にもたまにいるんだよ。スッと現場に入ってくるんだけど、地味に顔を作ってる人。何もしてなさそうで、ちゃんと表情を考えてるから、あとで写真を観た時に何か訴えかけてくるものがある。そういうものを感じたっていうか。{{ con役者さんてすごいんだなって思った。
竹内
いやいやいや!
長谷川
なかなかできないことだと思う。だから、演技をするってどんな気分なんだろうって。普段“演じる”みたいなことが自分のなかに全然ないから。
竹内
身近なところで言うと、嘘をつく時って芝居をしてる気がするんです。この相手をどうにか信じ込ませるには、いつもの俺で言ったらダメだ、じゃあ違うアプローチで向かっていかないとこの人を落とせない、騙せない……。それがお芝居なんじゃないかなって。
長谷川
俺はできないんだよね。笑っちゃうんだよ。竹内くんは上手なの?
竹内
いや、僕も嘘はまったく。へたくそです。
長谷川
はははは。
竹内
すぐバレちゃうんですよね……。だからまだまだです(笑)。