ファッションディレクター・スタイリスト
長谷川昭雄の
第一回
道具としての建築。
中山英之さん
建築家
今シーズンのモデル 8 人に、
スタイリスト長谷川昭雄が気になることを
聞いてみる対談シリーズ。
第1回は、UNBUILT の店舗デザインを手掛けた
建築家の中山英之さんに聞いてみました。
長谷川昭雄
撮影中に話してらっしゃった、“建物の方角とその使われ方”みたいな話が面白そうだなと思ったんです。たしか作業場は北向きに出来ているとか……?
中山英之
僕の本棚にはあんまり建築の本がなくて、っていう話から始まったんですよ。唯一見つけたら買っちゃうのが画家や写真家のアトリエの写真集なんです。
長谷川
それはアトリエの構造が見たくて?
中山
雰囲気ですね。たとえば好きなのは、ドイツの建築写真家ベッヒャー夫妻の仕事場をマティアス・シャーラーが撮った『The Mill』という写真集。夫妻は紙の断裁所だった場所を改造した建物で仕事をしていたんですが、彼らの厳密な写真とは違って少し雑然とした感じがあって、でもなんだか素敵に見えた。どうして素敵なのかっていう話のなかで、そもそもアトリエっていうのは“光がいい”っていう話になったんです。
長谷川
なるほど、“光がいい”。
中山
画家のアトリエって、北側の高い位置に窓を開けるんです。なぜかというと、直射日光だと影ができて作業に支障が出てしまうから。北から入るのは「天空光」と言って、まわりこんだ空気に光が反射して、部屋が柔らかい明るさになるんです。直射日光だとどうしても影ができてしまいますが、天空光の柔らかい光は手暗がりにならない。画家のアトリエってたいていは雑然としているけれど、そういう光の下ではかえって素敵に写るんですよね。それでつい、そういう写真集を見ると買っちゃうんじゃないかって。
長谷川
ギャラリーに倉庫跡が多いのもそういうことだって仰ってましたよね。
中山
昔の工場って自然光で仕事してたんですよ。人工照明が普及してなかった時代にはそれしか方法がなかったのだけど、やっぱり暗い所や明るいところに差があったら仕事になりません。それで、なるべく均等に光を落とすためにギザギザのノコギリ屋根にして、垂直の面から光をとり入れていたんです。その時、開口部は絶対に北側っていうのがルール。そうやって光を入れているから、中身をとっぱらってアートを置いたら、そりゃ美しく見えますっていう。美術館と工場の設計って実はよく似ているんです。
長谷川
天空光というんですね。
中山
北側にどうしても部屋が作れない場合は曇りガラスにします。透明な窓よりも曇りガラスのほうが室内の照度は高くなります。
長谷川
光が広がるんですか?
中山
そうです。いわゆる拡散光ですね。どうしても南側にしか開口が取れない、でもスタジオにしたいっていう時は、光を反射させたり、曇りガラスにしたり。
長谷川
物件を建てる時は、窓の向きや方角から入って行く感じですか?
中山
都会のなかですと、方位よりも「西からしか車が入れない」とか、「非常階段のスペースはこちらに付けないと」といったことで決まってしまうことも多いです。そうした要素で複合的に決まりますが、方位はすごく大事ですね。
長谷川
ここ(アンビルト渋谷店)はどうだったんですか?
中山
ここはあまりにも三面開口で(笑)。
長谷川
三面ってあんまりないですよね。
中山
商業建築では店内への視認性が優先されることも多いし、人工照明がメインになるので、アトリエや工場みたいに純粋な自然光相手だけではないですね。
長谷川
電気を消すとどうなるんですか?
中山
ここはすごく明るいです。都会の恐ろしいのは、ビルに反射して太陽の光が2ヶ所から射してくるような現象が起き得ること。そうすると影が2個出たりする。
長谷川
中山さんはこういった、既存の建物の内装を手掛けることもよくあるんですか?
中山
えっとですね、実を言うと僕はほとんど商業の内装をやってないんです。餅は餅屋というか、普段僕らが考えている建築とは、やっぱり要求される能力やスピードがずいぶん違う。ただ今回はこういう機会をいただいたので、チャレンジしてみたっていう感じですね。
長谷川
個人邸などの建築と比べて、自由度がないということですか?
中山
いや、自由度がむしろ高過ぎて、デザインのモチーフが自分たちのなかから浮かび上がってくるまでに時間がかかりました。建築は、それこそ方位とか、建築基準法に縛られた色々な決まりがすでにあるので、モチーフみたいなものを考える必要が意外と少ないんですよ。限られた構造材料をアセンブルしていきながら、その組み立て方に自分たちの考え方を込めればいい。でも内装となるとデザイン的な要素も多く入りますよね。経験値のある人には絶対に敵わないと思ったので、自分たちなりの“道具の働き”みたいなものを考えて、それになるべく素直に作りました。建物を建てるのと同じような材料しか使っていないんです。
長谷川
それでいうと、H鋼がキーワードだと聞きました。
中山
棚の支柱に使った、断面が「H」の形の形鋼(かたこう)ですね。街の中で着るスーツなので、歩道橋とか、街の中にあるいろいろなディテールを持ってこようと考えたんです。だから棚板も工業用の外装材を使っています。
長谷川
ああ、そうなんですね。
中山
そもそも柱を自立させるのって難しいんですよ。棚板がないと倒れてしまう。でもこれは全部1本で自立してるんです。棚板がなくなっても、同じ強度で立ちます。つまり建築と一緒で柱自体が自立してるので、その間に何を付けても大丈夫という。建築の基礎みたいなものですね。構造計算をして物をつくるのは我々には向いていて。
長谷川
ということは、床面は結構奥までボルトが入ってるんですか?
中山
そうですね、ビル側のレギュレーションを踏まえてアンカーを打っています。
長谷川
もはや内装のようで内装じゃない範囲ですね。床も盛ってるんですか?
中山
いや、これは建築自体の床です。本来は仕上げを貼るんですが、貼っていないので逆に床が低くなっています。その段差のぶんエントランスにスロープを作らなければならないので、渡した鉄板に靴ふきマットを埋め込んだり、自動ドアガードを兼ねたりしています。これもデザインというより、性能上必要なものに形を与えるだけなので、そういうことを考えるのは建築家にとっては楽なんです。
長谷川
こういう、予め窪んでいるところの導線とか、最初から作っておかないとちょっと落ち着かないですよね。あとから付け足すとなんだか趣味が悪くなったりして。あとこの柱の素材、どこかで見たことがあるような気がします。
中山
元から吹き付けられていたモコモコの耐火被覆が、それだけだとボロボロ落ちて来ちゃうので、上から防炎性能のあるターポリンという素材を被せています。ずり落ちてこないように、てっぺんをサスペンダーみたいにベルトで吊って。
長谷川
このビニール(素材?)、いい色ですよね。これもオリジナルなんですか?
中山
工事中のビルで養生なんかに使われている素材です。バッグにあるようなディテールを参考にベルトにフックを付けて、色んなものを引っ掛けられるようにしたり。同じ素材で椅子も作りました。中にはウレタンが入っています。
長谷川
什器もすごい。これも中山さん作ですか?
中山
はい、それはオリジナルです。最初に、「スーツとか洋服のかけ方には、“フェイスアウト”と“スリーブアウト”がある」って聞いて。フェイスアウトは、いわゆるマネキンに服をかけて紹介するような方法ですね。コーディネートの提案はできるけど、店の中に一杯それが並べられない。スリーブアウトは、肩を見せて並べる方法。たくさん吊れるけど、コーディネートの提案ができない。この二つを解決するにはどうしたら? と考えて、スリーブアウトの分量で、フェイスアウトのコーディネートがいっぱい見せられるお得な什器を考えました(笑)。
長谷川
すごい!
中山
一つ一つがウェブのカタログとも連動できる。ハンガーも特注の角形フックで、勢い良く開けてもゆらゆら揺れないようになっています。
長谷川
本当だ(思いっきり引く)。
中山
あんまり強くやると落ちます(笑)。取っ手部分は、救急車や消防車といった緊急車両で使われているパーツを使用しています。
長谷川
触るところってすごく目に付きますもんね。楽しいですよね。
中山
でもね、なかなかみんな引き出してくれないみたいなんです。だから今、次の方法を考えています。楽しみにしていてください。
長谷川
お店ができて少し経って、今どうですか?
中山
お客さんやスタッフの皆さんが使ってくれて、また色々と変化していると思うので、それを受けて改めて新しいことを考えてみたいですね。